たかはし耳鼻科クリニックHP

       喉頭癌

愛煙家の直らない声がれは喉頭癌の重要なサイン                              

 

喫煙の影響によってできる癌というと、皆さんは直に肺癌を思い浮かべると思いますが、肺癌以上に喫煙が関係しているのが喉頭癌です。

喉頭はいわゆる「のどぼとけ」の奥にある発声器官で、女性は約一割と圧倒的に男性に多いのが特徴の一つです。

喫煙と喉頭癌の因果関係ははっきりしています。
喉頭癌にかかった人の96%以上が喫煙習慣のある人であったとの報告もあるほどです。
喉頭は真っ先にタバコの煙が通過する部位なので密な関係も納得するところです。

男性に多いので男性ホルモンとの関係を主張する耳鼻科医もいますが、単に男性に喫煙者が多いだけなのかもしれません。
以前、中国の耳鼻科医と話す機会がありましたが、中国では女性の喫煙者が多く、それに伴って、女性の喉頭癌も多いそうです。                    

最近では日本でも女性の喫煙者が増加しているので、将来は女性の喉頭癌の増加を心配する耳鼻科医もいます。

喉頭癌と喫煙の関係を知る目安に喫煙指数というものがあります。
これは一日に吸うタバコの本数と喫煙年数を掛け合わせた数字で

たとえば一日平均20本のタバコを30年間吹い続けた人の喫煙指数は、20X30=600となります。この指数が600を超えると喉頭癌に要注意です。

勿論、これ以下の数値でも喉頭癌になることが無い訳ではありません。

喉頭癌の代表的な症状は、癌のできた場所によっても違いますが、治らない声がれです。

喉頭癌の中でも最も多い、声帯にできる声門癌は、初期の段階で声がれがあらわれ、人体にできるあらゆる癌の中で最も小さい段階で症状がでる癌といえます。
この段階で発見できたなら、手術によって声を失うこともなく、放射線だけで治る可能性が高い癌といえます。
しかし、愛煙家の方は健康に無頓着な人が多くて自分は癌にはならないと思っているらしく、初期の貴重な声がれのサインを見逃して「自分は元々こんな声だ」と自己判断して耳鼻科を受診せず、声を失わずに治るチャンスを逃してしまう患者さんも多いです。

声帯より上にできる声門上癌は、進行しなければ声がれはみられません。
のどの異物感や痛みがはじめにあらわれる症状のこともあります。
頸のリンパ節に転移して頸が腫れて見つかることもあります。
声門癌に比べて癌が小さい段階での症状があらわれにくく、手術で声を失うことが多くなります。

症状の現れにくい癌ですから、愛煙家は年に一度は喉頭を診てもらいましょう。
早ければ、声を失うことなく、放射線で治るのです。

診断は大掛かりな機械はむしろ分かりにくく、内視鏡で診ると容易に分かります。
鼻から細いファイバーを入れて喉頭を覗くだけです。

胃カメラよりもはるかに楽ですから、ご安心ください。


思い出に残る患者さんの話

Aさん(喉頭癌・50代女性)=

癌研には年100人近くの喉頭癌の患者さんが来られる。
他の病院も含めて、2000人近い喉頭癌の患者さんを診てきた。
女性で喉頭癌の患者さんもずいぶん診たが、タバコを吸わない女性の患者さんは2人しか記憶にない。
一人は高齢の女性で、何度聞いても、「私は、絶対にタバコは吸ったことはない。」と言っていた。

もう一人がAさんである。
ノドの違和感を訴えて受診した。
見ると,声帯上に癌ができている。
以前にバセドー氏病(甲状腺機能亢進症)で喉頭にも少し放射線をかけている。
(今はバセドー氏病に放射線をかける治療は行われなくなったが、戦後しばらく行われていた。)

放射線に発癌性があることは知られている。

彼女の喉頭癌は喫煙が原因ではなく、放射線が原因と考えられる。

放射線でできた癌に放射線をもう一度かけるのも変な話だと思われるかもしれないが、放射線治療を行った。幸い、効きめもよく、きれいに治った。

Bさん(喉頭癌 50代男性)

Bさんの癌は大きく、少し放射線をかけてみたが効果も乏しい。
残された方法は手術をして喉頭をとるしかない。

喉頭をとられて永久に声がでなくなることに誰しもがすんなりと承諾してくれるわけではない。

癌であることを自覚していても「死んでもいい。」と拒否する患者さんは珍しくはない。

そのような場合は待つしかない。

癌が大きくなるにつれて段々と呼吸が苦しくなってくる。
死んでもいいとは言っても、実際に呼吸苦が強くなってくると、それに耐えることはできない。最後は必ず手術に納得してくれる。

Bさんの場合は、最初は手術に納得したかに思えた。

「手術の前に仕事の整理をしに数日、外泊をしたい。」

独身のBさんはそのまま行方不明になった。

ある日、某大学病院から連絡があった。

「お宅に入院していたBさん、うちに呼吸困難で運ばれて、喉頭を摘出しました。」

癌は決して見逃してはくれない。

 

Cさん(喉頭癌 70代 男性)

Cさんの癌も手術が必要である。

手術の話をすると、その次の外来日にある本を持ってあらわれた。

今もあるのかどうか知らないが、当時、民間療法で“サメの軟骨で癌が治る”というのがあった。

「サメを一匹、既に買ってある。その軟骨を全部食べて、それでも癌が治らなかったなら手術を受ける。」と。

癌の民間療法にも色々ある。やれアガリスクが良い、芽昆布が良い・・・。

藁をもつかむ思いの患者さんやその家族を逆手にとって、「そんなに簡単に治るのならこんな苦労はしない」。
いつぞや、癌研の先生と冗談で「我々も癌が治るというふれこみで水でも売るか?大もうけできるかも?」と話したことがあったけれど。、困ったものだ。

「サメの軟骨を一匹、食べるのに何日ぐらいかかるのだろう?それまでに何もなければいいが。」

結果がでる前に彼は亡くなった。

夏の暑い日、畑で倒れているところを発見された。

 

Dさん(喉頭癌 40代 男性)

Dさんは私が始めて喉頭全摘を行った患者さんとして、その後、色々お世話になった患者さんとしても記憶に残る。

喉頭癌については、放射線治療にもかかわらず、残念ながら、再発した。

このような場合、喉頭癌は手術をすれば良く治る。Dさんもお元気だろう。

どうゆう事から決まったのかは忘れたが、私と病棟の看護婦さんの有志と婦長さんと、彼の案内で東京銀鈴会に見学にいったことがある。
銀鈴会とは、喉頭を摘出された患者さんの親睦団体で、初心者、中級者、上級者、指導者に分かれて,食道発声を練習している。

喉頭をとっても、全くの無言ではない。
練習次第だが、食道に空気を入れて“げっぷ”を出すようにして声をだすことができる。

上手くなると、日常会話のみならず電話もできるようになる。
私達が見学に行ったとき、上手い人が歌を歌ってくれた。

指導者が初心者、中級者に教えていた。

癌研の患者さんも大勢いた。自分の患者さんも元気に練習しているのを見て嬉しかった。

Dさんや癌研の患者さんに、癌研の患者さんの休憩室で、これから喉頭をとる患者さんや退院を控えた喉頭摘出の患者さんを対象とした教室を開いてもらうことにした。

毎週一回今はどうなっているのか知らないが、教室は私がやめるまでは開かれていた。

実際に彼らが、たとえ喉頭をとってもこんなにもしゃべられるようになると言うことを、眼の前で教えてくれる。
「とにかく、手術前で不安だった時、彼らの元気な姿に安心した。」と言う患者さんが大勢いた。

「がんばれば自分もあのように上手く話せるようになるんだ。」

その中心となり、毎週のように頑張ってくれたのがDさんだった。