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        甲状腺癌

= 甲状腺癌 =

甲状腺は下頸部の気管の周りをとりかこむ蝶々形の腺です。
甲状腺には良性・悪性、様々の腫瘍ができます。特に女性に多くみられます。

まず、良性腫瘍のお話をします。

甲状腺を触ると、女性の方は高頻度で甲状腺に何らかのしこりを持っている人がみられます。
もし、街行く女性の頸をかたっぱしから触れたなら(そんなことはできないけど・・・。)

何人かしこりを見つかると思います。
私は外来に来た女性の患者さんの頸は必ず触るようにしています。
本人が気づいていないしこりが見つかることがあります。

問題はこのしこりが良性か悪性か判断し、良性と判断したなら治療をどうするかです。

甲状腺の良性腫瘍には、腺腫様甲状腺腫、濾胞腺腫、のう胞、などがあります。

甲状腺は、まず、触ってみることが重要です。
それで、悪性かどうか、分かることがあります。
次に、超音波検査をします。
診断に慣れた医者なら、超音波検査だけでしこりが癌かどうか、かなり正確に分かります。

甲状腺癌には色々のタイプがありますが、乳頭腺癌が圧倒的に多いです。

次に、しこりに針を刺して細胞をとり、その細胞を調べますが、乳頭腺癌は非常に特徴的な細胞がみられますので、“乳頭腺癌”と言われたらまず癌です。

治療は、原則、手術です。

問題は、“しこりにどのような手術を行うか。”です。

前述しましたが、私は産経新聞の“癌・電話相談”の頭頸癌を担当していました。

そこで一番多かった相談は、
「甲状腺にしこりが見つかりました。主治医は様子を見て大丈夫、と言います。このままで大丈夫でしょうか?」

回答は、
「主治医が甲状腺専門の先生であったなら大丈夫です。(東京の大学には内分泌科と言って、ホルモン専門の医者がいます。)主治医を信じて下さい。
今は、切る前の検査で癌かどうか、非常に正確に判るようになりました。
仮に検査が間違っていて癌だとしても、非常に増殖スピードの遅いので、大きくなるようなら手術することでも心配は要りません。
あなたの主治医は良心的と言えます。手術をすれば、病院の収入は増えますから、むしろ切らなくても良いものまで切る医者が多いのに・・・。」 

増殖のスピードが遅いとは言え癌ですから、手術をするからには、きちんとした手術が必要です。
どこをどうとったらいいか、話は専門的になりますので、ここではやめておきます。

私は、乳頭腺癌の患者さんには“癌”と、はっきり告知しておりました。
乳頭腺癌は大人しいだけに20年以上経ってからの再発があります。
長期的に診なければならない癌なので、5年生存したら安心できる癌ではないことをお話します。

よく癌は5年生存といいますが、5年生存率でみますと差がでません。10年でみますと、むしろ乳頭腺癌の方が普通の方より良いぐらいで、この理由は、癌の方はきちんと病院に通っていて、そのことが他の癌の早期発見につながっているのだろう、と考えています。

甲状腺癌はどのような人がなりやすいか、はっきりしたことはわかっていません。

女性の方に多くて、10%ぐらいの女性は小さな癌を持っているのではないか、と考えられています。
何らかの理由で解剖された女性を調べてみると、1割ぐらい小さな乳頭腺癌が見つかると言われています。
しかし、多くの人は癌が大きくならずに一生を終えると言われています。

人間にできる癌の中で、最もおとなしいと言われている乳頭腺癌に対して、人間にできる癌の中でも最も性質が悪いと言われているのが甲状腺の未分化癌です。
この癌は急速に大きくなってきて、この癌にかかったら3ヶ月生きる人はいないと言われています。

手術もできないし、放射線も抗癌剤もききません。

 

思い出に残る患者さんの話

* Aさん( 甲状腺・乳頭癌 60代女性 )

Aさんは30年ほど前に癌で甲状腺を半分とっている。
その後、異常なく経過していたが、30年ほど経ったある日、胸骨の上の方が腫れているのに気づいた。
それで癌研を受診した。

腫れに針を刺して細胞を調べてみると甲状腺・乳頭癌であった。

手術をした。残った甲状腺は全く異常がなかった。
腫れていたのは気管周囲のリンパ節への転移であった。

癌研は、以前から、甲状腺癌が疑われた患者さんは、気管周囲のリンパ節をとるようにしている。
過去、癌研で治療した甲状腺乳頭腺癌の患者さん600人程のリンパ節転移の頻度を調べて、甲状腺の学会に報告したことがある。

それによると5mmの癌の患者さんで50%の人が、気管周囲のリンパ節に転移がみられた。

 

 

 

*       Bさん(甲状腺・乳頭腺癌 60代 女性)

Bさんは甲状腺に、自分でも判る小さなしこりがある。
気にして20年前、癌研を受診した。検査をしたが癌とは診断できず、それでも、心配で数年に一度、検査を受けに来ていた。
20年間、大きさは変わっていない。
20年ほど経って、針をさしたら乳頭腺癌の細胞がでた。手術をして後の経過は順調である。

甲状腺の良性のしこりが癌に変わることはない。
彼女の場合、針を刺した時、上手く癌細胞がとれなかったことが考えられます。たとえ一回の検査で異常がなくても、経過をみて、時々検査をするようにしていますが、20年も通ってくれた彼女のおかげで癌が発見できたともいえます。

 

 

 

*       Cさん(甲状腺・乳頭腺癌 20代 女性)

彼女は肺転移でみつかった。
検診で肺に多数の転移の影があることを指摘された。

この場合、甲状腺乳頭癌の転移が真っ先に疑われる。

彼女の甲状腺を触ってみるとしこりがあり、私達の科を紹介された。

確かに甲状腺にしこりがあり、転移と思われる頸のリンパ節の腫れも認めた。
甲状腺からの細胞検査で癌細胞が見つかった。

他の癌なら肺転移があることは末期的なことを意味するが、乳頭腺癌の場合はあきらめることはない。
肺転移に対する特別な治療があるのだ。
ちょっと専門的になるが、まず、甲状腺を全部とる。(甲状腺は全部とっても甲状腺ホルモンが薬としてできているので大丈夫。)
ホルモン剤を飲まないで、身体をホルモン不足の状態にしておいて、放射線のついたヨードの薬を飲んでもらう。ヨードは海藻などに多く含まれ、甲状腺ホルモンに使われている。
肺の転移巣も甲状腺としての働きをしているので、放射線のついたヨードは肺の転移巣に取り込まれて、癌細胞は内から放射線で焼かれるのだ。

彼女も頸のリンパ節郭静術と甲状腺の全摘術を行い、ヨード治療を行った。

肺転移で見つかったので、当然、彼女もそのことを知っていたし、私も包み隠さず話したが、大変明るく頑張っておられた。

 

*       Dさん (甲状腺・乳頭腺癌 50代女性)

彼女は20代の時に、甲状腺癌がみつかり、他院で手術を受けている。
その後、何年かおきに、転移で頸のリンパ節が腫れて、その都度、リンパ節を取る手術を受けている。

40代になった時、下頸部のリンパ節が腫れてきた。
腕を動かす神経や脳に血液を運ぶ血管が巻き込まれており、主治医は「手術はもう無理だ」と言った。

それからしばらく経った。

私達の外来を受診した時、転移したリンパ節は巨大になっており、皮膚を破った癌腫は赤ちゃんの頭ほどもあった。

どうしたら良いのか。全部をきれいにとるのは無理。かといってこのままではおけない。

せめて小さなガーゼを当てたなら癌腫を隠せるようにしたい。良い考えが思い浮かばなかった。

ある日、私の前任の甲状腺担当の先生が輪ゴムをもってきた。
頸から飛び出た癌腫の根元にゴムを巻きつけた。
毎日少しづつ、その播きつけを強めていった。

さしもの巨大な癌腫も、血流障害からだんだん萎み、ある日ぼろりと落ちた。

我々はこの方法を“輪ゴム療法”と呼んでいた。

結局、神経や血管の周りの癌はとっていないので、彼女はしばらくして亡くなった。

まさに、甲状腺癌とともに生きた人生だった。

昔は、手術が発達していなかったので、腫れてきたリンパ節だけをとっていたが(今もそのような手術をしている施設があると聞くが・・・。)、今は、頸部郭静術といって、頸の上から下までのリンパ節を一度にとるのが一般的である。

おとなしい癌とはいえ癌ですから、きちんとした手術をしないと彼女のように不幸な結果を招く。

 

* Eさん(甲状腺未分化癌 40代 男性)

Eさんは1ヶ月ほど前、甲状腺にしこりを自覚した。
病院に行こうと思っていたところ、しこりが急速に増大。
他院から転送されてきた。
この方がつい一ヶ月前には働き盛りで社会でバリバリ働いていた人かと思うほど衰弱していた。
頸前面に巨大な腫瘤があり、眼が見えなくなっていた。
このような、急激な経過をとるのは未分化癌しかない。

CT検査をしてみると、頸の骨の前を進んで頭の中に入り込んだ癌は視神経を冒していた。

打つ術なく、3週間後に亡くなった。

*       Fさん(甲状腺未分化癌 60代 女性 )

「頸が腫れてきました。」

診ると、甲状腺にポコンと突出したしこりがある。
「ちょっと前にはこんなしこりは確かになかった」と言う。
彼女の言うことを信じるとしたら、こんなに早く大きくなるのは未分化癌だけだ。

すぐに、一番退院できそうな患者さんに無理を言って、ベッドを空けてもらい(都立病院は耳鼻科のベッドは少ないのです)、検査日に耳鼻科の臨時手術を行うことを、麻酔科の先生に承諾してもらった。

そうして、できる限り手術を急いだつもりだが、入院してきた時診た彼女のしこりはさらに大きくなっており,、初めて診た時はコロコロと良く動き、十分取れそうだったのが、全く動かない。
手術をしたが、すでに頸の骨や大事な血管と癒着しており、癌の手術としては、けっしてきれいにとれたとは言えなかった。

やはり、まもなく再発し、一ヶ月ほどで亡くなった。

甲状腺未分化癌は、見つかって、もしもそれがとれそうなら、その日に手術するぐらいでなければダメとの印象をもっている。

 

*       Gさん(甲状腺・濾胞腺腫 60代 男性)

甲状腺の良性腫瘍には腺腫様甲状腺腫と濾胞腺腫がある。

甲状腺の良性腫瘍は手術しなくていいのだが、かなり大きくなるものがあり、そうなると見た目の問題がでてくるので、その場合は手術を行う。良性腫瘍の患者さんはあまり記憶に残らないものだが、彼のことはよく覚えている。

その訳は、彼が関東地方の、とある市一帯をしきるやくざの大親分だったからだ。

「今度受け持ってもらう患者さんはやくざの親分。」と聞いた時は、ちょっと怖かったけれど、病室に挨拶に行ってみると、ことのほか礼儀正しく、「やくざでも親分になる人は違うんだな〜」と思ったものだ。

入院中、癌研の個室にビデオデッキを持ち込んで、高倉健だとか鶴田浩二だとか,東映のくざ映画ばかり見ていた。根っからやくざが好きらしい。

退院してから6ヶ月ごとに経過観察をしていたが、受診の前には必ず彼自身から私に電話があり、「来週の先生の外来日にうかがいますのでよろしく」

診察の前に確認の電話を入れてくるのは彼しか記憶にない。

「先生、困ったことがあったら何でも言ってください。助けになります。」

やくざの親分に助けてもらうことは何もなかった。

誰か女性とトラブルを起こしているわけでもないし、サラ金に追われていることもないし、けんかもしていないし・・・。

癌研をやめることになったときに、時間が合わず彼には挨拶ができなかった。

さぞかし、「礼儀知らずな若僧め。」と思ったことだろう。